ITB療法ウェブサイトは、痙縮のある患者さんのための情報サイトです。

近畿大学医学部 脳神経外科
内山卓也先生

中枢神経(脳や脊髄)の障害を起こす主なものには、脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など),頭部外傷,脊髄損傷,脳性麻痺などがあります。障害を受けた直後に手足の筋力が低下したり、動かなくなったり(運動麻痺),日常生活動作の低下,歩行障害などの機能障害が生じます。これらの症状は急性期にはリハビリテーションを主体とした運動療法が治療の中心となりますが、ある一定期間を経過すると麻痺した側の筋肉が硬くなり、再び動かすことが難しくなり、手足の関節を急に動かそうとすると震えてしまうなど、筋肉が強く緊張した状態になります。これが痙縮とよばれる状態です。痙縮が強いとリハビリテーションが進まなくなり、手足の動きがさらに悪くなり、日常の生活動作や生活の質を低下させることとなってしまいます。

痙縮に対する治療は、筋肉を緩める薬やリハビリテーション以外は医療の現場でもまだまだ知られていないことが多く、患者様や患者様の家族だけでなく医療に従事する方々にも知っていただくために、ここでは脳の障害による痙縮を中心に具体的にどの様な症状なのか、病気の種類によって特徴的な症状は何か、そして治療法について説明させていただきます。

1)脳卒中後に生じる痙縮
主に脳出血や脳梗塞により片側の脳が傷つき結果として傷ついた脳と反対側の腕・手と足に症状が出ます。いわゆる片方の麻痺です。ある一定の期間が過ぎると、脇が開かない、肘が曲がったまま、手首や手指も内側に曲がったままの形になります。足首が伸びて、内側に曲がった形にもなります。また、曲がった関節を早く伸ばしたり、伸びた関節を反対に曲げたりすると関節が「がくがく」震えることも良くあります。手に関しては脇や肘または手首や指が開けにくくなり、服が着にくくなったり、スプーンなども持ちにくくなったりします。足に関しては、緊張が軽い場合はこの緊張を使って歩いたりすることが可能となりますが、強くなってくると関節の動きが悪くなり、うまく歩くことができなくなります。

また、脳幹(脳の中心にある脳)の出血や梗塞では、症状は片方だけでなく、先に述べた症状が両方の手足に現れ、意識状態も悪く、寝たきりなどの重症となることがあります。
日本での脳卒中の患者数は150万人弱で、そのうち重度痙縮患者数は1%程度の1万5千人程度と推測されます。

2)成人の脳性麻痺による痙縮
脳性麻痺には主に痙直型とアテトーゼ型というものがあり、痙直型は、低出生体重などが原因となり、障害部位によって片方の手足や両方の足、また全ての手足などに筋緊張が高くなり、腱反射も高く、手がうまく使えない、歩行がうまくできないなどの症状がでてきます。一方アテトーゼ型は核黄疸、周生期仮死が原因であり、不随意運動(手足が意志とは別に勝手に運動してしまう)が主な症状で、筋肉の緊張は少なく腱の反射も高くないことが多い様です。従って痙縮の治療としては、痙直型が対象となることが多くなります。患者数は約10万人程度で、そのうち重度痙縮患者数は1万人程度と推測されます。

3)頭部外傷による痙縮
頭部外傷は、受傷による脳の損傷の程度によって症状は様々ではありますが、手や足を動かす場所である脳の損傷による運動麻痺の後に痙縮は生じます。軽微な外傷では出現することは少なく、頭部外傷のなかで重症(意識が悪い)の状態からの回復時期に認めることが多くなります。例えば筋肉の緊張が非常に強いために体や手足が反り返るような形をとります。一部の患者様では周期的に異常に汗をかいたり、心臓の拍動が早くなったり、体温が非常に高くなったりします。この状態ではリハビリテーションが進みません。さらに時間が経過すると筋緊張のために体や手足が固まってしまう状態となり、看護や介護に支障をきたします。こういった時期を見逃してしまいますと完全に寝たきりの状態となり治療の機会を失ってしましまうことになりかねません。頭部外傷の患者数は250万人程度で、その内重度痙縮患者数は5000人程度いらっしゃると推測されます。

痙縮に対する治療法
痙縮の治療には、内服治療やリハビリテーション以外に外科的治療として、神経縮小術(運動神経を細くし、高くなった筋緊張を緩め運動のバランスをとる手術)やボツリヌス療法(緊張した筋肉に注射)やITB療法(バクロフェン髄腔内投与療法)があります。 神経縮小術やボツリヌス療法は比較的軽い痙縮や痙縮が手または足に限られている狭い範囲に認められる場合によく用いられます。

一方手足の広い範囲や意識が悪く自分では手足や体が動かない程の強い麻痺、介助者や介護者がリハビリテーションを行ことができずベッド上に寝たきりになり、服を着せたり、おむつを替えたりすることが難しく障害の範囲が広くなり、ボツリヌス療法や神経縮小術では対応できなくなります。こういった場合にはITB療法が良いと考えられます。

ITB療法は、障害に陥った神経や筋肉を傷つけることなく脊髄を覆っている硬膜の内側にある脳脊髄液(脊髄腔内)内にカテーテルを入れ、お腹の皮膚の下に置いたポンプからバクロフェンという筋肉を緩める作用のある薬を持続的に投与する治療法です。この治療法であると一度に手足や体の広い範囲に薬を効かすことができます。またお薬の投与する量を外部から操作して硬さにあわせて調節できるのもこの治療法のいいところであります。また、この治療法にはポンプを埋め込む前にバクロフェンに効果があるかどうかを確かめることができます。スクリーニングテストといって脊髄腔内に1回〜2回程度試しに薬を入れ筋肉の硬く縮んだ状態が良くなるかを確かめる方法です。手術前に治療の疑似体験ができるのです。

ITB療法により全く動かなくなった手足を、以前のように完全に戻すことはできないのですが、この治療法により硬くなった筋肉を緩め、関節運動を自分でまたは介助により容易に動かせる様になり、リハビリテーションが容易になり意識状態や運動機能の改善を期待でき介助・介護も容易になります。

2005年からITB療法を日本で受ける事ができるようになり現在1000例を超える方々が 治療をうけておられます。その内訳は脳卒中による痙縮に対しては約100人、脳性麻痺 による痙縮に対しては約120人、頭部外傷による痙縮に対しては約60人です。この数値は、海外に比べるとかなり少ない治療件数となっています。1つの原因として、こういった痙縮に対する外科的治療が患者様、またそのご家族、医療関係者に知られていないことが考えられます。脳や脊髄の病気で今現在お困りになっていらっしゃる方、またご家族の方や医療関係者にこれらの治療法を知っていただくことが大事です。また病気になってから長い期間経ってしまって無理かな?と思われている方も治療は受ける事はできます。現在治療を受けられた方の中には数年から十数年の方もいらっしゃいますので、現状に躊躇することはなく専門施設や専門医に相談されることをお勧めいたします。