変性疾患を中心に

いしばし脳神経内科クリニック 内科・神経内科 
石橋哲先生 


脊髄小脳変性症、遺伝性痙性対麻痺

病因
小脳、脳幹、脊髄にかけて徐々に組織が変性する疾患です。遺伝性および遺伝性が考えにくい弧発性の病型に分けられ、様々な病型で痙縮が出現します。

症状
歩行のふらつきや手足の震えなどの小脳失調症状、立ちくらみや便秘などの自律神経症状に加えて、特に遺伝性痙性対麻痺や一部の遺伝性脊髄小脳変性症では手足の突っ張りなどの痙縮症状が出現して歩行障害の原因となります。

患者数
10万人に5-10人程度に発症すると言われていますが、本邦では3万人以上が特定疾患医療受給者として登録されています。そのうち、強い痙縮が見られるのは遺伝性痙縮対麻痺、および一部の遺伝性脊髄小脳変性症が中心です。

重度痙縮の発生頻度と時期
数年から数十年かけてゆっくりと進行する経過を取りますが、進行の速度は病型により異なり、また同じ病型であっても個人差もあります。痙縮が主症状となる遺伝性痙性対麻痺においては、進行は緩徐であることが多く、ITB療法(バクロフェン髄注療法)により痙縮を和らげることにより長期間にわたり生活レベルの改善が見込める可能性があります。

治療法
多くの脊髄小脳変性症で病気の原因が判明し、治療法の研究も進んでいます。現在、失調症状、自律神経障害などに対して様々な対症療法が可能です。重度の痙縮に対しては経口抗痙縮薬や、経口抗痙縮薬の効果が不十分な場合や眠気などの副作用が出現して困る場合のITB療法もその治療の一つです。



筋萎縮性側索硬化症 (ALS) 及び原発性側索硬化症 (PLS)

病因
大脳、脊髄、末梢神経のうち特に運動神経が徐々に脱落する神経変性疾患です。原因としては、グルタミン酸および酸化ストレスによる神経細胞傷害やTDP-43あるいはFUSといわれる蛋白が発症の原因と考えられています。TDP-43はALS患者の変性部位に出現する異常な物質を構成する蛋白で、その物質が蓄積すると神経変性を起こす可能性があると考えられています。FUSは遺伝子の変異が認められる蛋白で遺伝性ALSとの関連に注目が集まっています。

症状
運動神経の障害により、しゃべりにくくなる構音障害、嚥下障害、筋力低下や筋萎縮を自覚します。特に、中枢神経(大脳や脊髄)の運動神経(上位運動ニューロン)が障害されると痙縮が出現します。原発性側索硬化症では、上位運動ニューロンの変性のみが起こりますので強い痙縮が出現します。

患者数
有病率は人口10万人あたり2-7人で、特定疾患医療受給者数によると全国で1万人前後が登録されています。

重度痙縮の発生頻度と時期
筋萎縮性側索硬化症の場合、数年の経過で徐々に筋力低下が進行することが多いですが、進行の速度には個人差があります。また、原発性側索硬化症では筋萎縮性側索硬化症と比較して進行は緩徐であることが多いと言われています。

治療法
神経細胞障害を緩和させる目的で、グルタミン酸の毒性を阻害するリルゾールの内服や、フリーラジカルによる酸化ストレスを減らすエダラボンの静脈投与を行います。また、十分な栄養管理を行い、場合によっては嚥下障害に対する食事の工夫や経管栄養、呼吸機能が低下した場合の非侵襲的な呼吸補助などを行います。痙縮が重度で生活の質(QOL)が低下している場合にはITB療法などを行って改善を図ります。注意しなければならないのは疾患の進行に伴って筋力低下も進行することで、注意深い観察を行いながら投与量の調整をする必要があります。



多発性硬化症 (MS)、視神経脊髄炎 (NMO)

病因
リンパ球や自己抗体により大脳白質、脊髄、視神経といった中枢神経が障害を受ける自己免疫疾患です。

症状
病変部位により、視野・視力障害、麻痺、感覚障害、失調症状など様々な症状が出現し、多くの場合、初期には再発と寛解を繰り返します。一部は、経過とともに明らかな再発を認めずに障害度が進行する二次進行型に移行します。稀に発症時より進行性の経過をとる場合もあり、このような病型を一次進行型と呼びます。
特に脳幹や脊髄の病変が目立つ場合、および進行型の経過をとる場合は痙縮の出現頻度が高くなります。

患者数
有病率は10万人あたり8-9人で、約2万人の方が特定疾患医療受給者として登録されています。

重度痙縮の発生頻度と時期
北米研究委員会の調査では、日常活動の修正が必要な中等度の痙縮は13%、日常活動を阻害する重度の痙縮は10%程度と報告されています。二次進行型及び一次進行型では症状がゆっくりと進行し、治療効果が再発・寛解型に比較して乏しいためITB療法による持続的な痙縮治療が必要となることがあります。

治療法
症状再発時など急性期には高容量ステロイド投与や血漿交換療法を行い症状の改善を図ります。また、再発を予防する目的で、疾患修飾薬や免疫抑制剤の自己注射や内服を行います。痛み、しびれ感、排尿障害などの後遺症に対しては対症療法を行います。
免疫療法によって症状の改善、治癒が望める疾患ですのでが、十分な免疫療法を行っても重度の痙縮が残存する場合、あるいは治療効果の乏しい進行型の場合は痙縮を軽減する目的でITB療法が用いられます。
注意点としては、症状が変動する場合があること、投与量が多いとかえって筋力低下が強く出現する可能性などがあり、定期的な投与量の調整が必要となります 。